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緩やかな流れの上、小さな屋形船が重たげに進んでいく。屋根の下は積み荷に占領されてしまい、人間様である僕の方が屋根の外に追い出されたりなどしていた。さらにはそれらを囲うようにして障子まで立てるほどの心遣い。というのも僕の荷物や何より鵠王国への献上物が結構なお値段のする代物なわけで、何かと物騒なことが多い国境地域においてあからさまに見える状態で運ぶわけにはいかないのだ。おかげで僕は船尾の所にまで追いやられ、そこに立って遠ざかる川岸を眺めていた。とぷんとぷん、と船頭が櫂を漕ぐ音だけが響いている。
「心配ですか?」
隣で問いかけてきたのは父の、いや、今は長兄の小姓のソウで、一緒に船に乗り学園に着くまで付いてきてくれるという。過保護だなと思いつつも心強い。僕が幼い頃からうちに仕えていて年頃も近いので気心知れた仲なのだが、僕よりも不安げな顔をして僕のことを見るものだから困ってしまう。
「心配がないとは言わないけど。でも今回のことについてはみんなから期待されているし、僕も自分にはそれなりに自信は持っている……やれるだけのことはやるさ」
安心させるように笑ってみせる。半分以上は自分に言い聞かせるためのものだけれど。
「お母君がキトまで見送りにいらっしゃることができて良かったですね。一時はそれすら不可能かと思われましたが」
「うん」
「お母君は何と?」
「それが父上と一言一句違わず同じことを言うんだ。『良いですね、ウジャク。我々キョウ家は長きにわたりヒシュウ国王家にお仕えしてきた一族です。その事実はどのような時流にあろうと、いかに離れた土地にいようと変わりはしません。常に王家のため、国のためになるよう励みなさい。誇りを持って行動するのです』ってね。父上が生き返ったか、母上にとり憑きでもしたかと思ったくらいだよ」
僕の軽口にソウは少し笑ったがすぐに笑みを引っ込め、
「お母君もあの一件では随分気を落とされていたでしょう?その上ウジャク様まで……家を離れることになりましたから。お辛いでしょうに、旦那様が生きていらしたらきっとされたようにウジャク様を激励されたのです。それでもやはり、本心ではお寂しいのですよ」
と、諭すように言う。
「みんな、みんな寂しがっています。もちろん僕も」
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