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「……違う」 「え?」  それは掠れた、ともすれば、聞き逃してしまいそうな小さな声だった。  私は春斗君の続く言葉を聞き逃すまいと、無意識に春斗君に顔を寄せた。すると距離を近くした事で、春斗君の頬が赤く染まっているのに気付く。 「違うんだ! 僕は嬉しかった。嬉しくて、結衣の気持ちが凄く嬉しくて、咄嗟になんて反応していいか分からなかった! 変なふうに気を回させちゃって、こっちこそごめん!」  物凄く、びっくりした。  赤く染まった頬に気付いて、春斗君はもしかすると迷惑に思っているんじゃなく、照れているのかもしれないと思った。  だけど春斗君からもたらされた言葉は予想のもっと上をいく、とてもとても嬉しい言葉だった。 反応が追いつかなくて、今度は私がポカンと春斗君を見てめていた。  顔を上げた春斗君の頬は真っ赤だった。だけど見なくたって分かる、私の頬もまた、春斗君と同様に真っ赤に染まっているに違いなかった。  傍から見れば、真っ赤になって見つめ合う私達は滑稽かもしれない。  だけど今、等身大の勇気で向かい合うこの瞬間が、私にはかけがえのないものに感じた。 「僕だって、結衣の事がずっと好きだった。情けないけど僕は、伝える勇気がなくって……」  私と春斗君の想いは、まるで同じ。好意も、それに尻込みしてしまったところまでもが、示し合わせたかのように同じだった。 「春斗君、嬉しい。私は今、物凄く嬉しい!」  私は一歩踏み出すと、右手を伸ばし、目の前の春斗君の手を取った。  小学生の時も、何かの拍子に戯れに手を取り合う事があった。  だけど今、確かな意図を持って取り上げた春斗君の手は、実際の温度以上に熱く、大きく感じた。 「……なんか僕、恰好悪いね。いつも結衣が僕の一歩先を行って、僕は後手に回ってばっかりだ」 「恰好悪くなんかないよ! これは私の問題。さよならした時、どうして伝えなかったんだろうってずっと後悔してた。だから私、決めてたの。これからは自分の想いに正直にいるんだって。だからなんでも包み隠さず伝えちゃうけど、それが嫌だって思ったら言ってね? そしたら頑張って直すから!」  繋ぎ合わせた春斗君の手を、キュッと握り締めた。
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