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1.黒
私は入賞の発表があった後、パーティー会場の床を見つめていた。毎年、城山の頂上にあるホテルで焼酎の鑑評会が開かれる。そして、今年の焼酎の入賞を決めるのだ。
焼酎の産地、鹿児島。出品される焼酎の水準は高いし、出品する蔵元のレベルも高い。入賞できない年だってある。今村商店の焼酎だって、毎年のように入賞していたというわけではない。
だけど、今年は入賞したかった。今年の杜氏は私が務めた。どうしても入賞したかった。
「玄穂さん、残念でしたね。来年です、芋は毎年できますから」と川畑さんは笑いながら私の肩を優しく叩いた。
川畑さんは、今村商店に父の代からずっと働いてくれている蔵人だ。父の右腕。私が曲がりなりにも今年、杜氏を務めあげることができたのは川畑さんがサポートをしてくれたからだ。
「すみません。私の力不足です。あんなにみんな頑張ってくれたのに」
「先代だって入賞を逃したことがあります。それに今年の芋は難しかった」
川畑さんの言う通りだった。去年の夏は曇りの日が例年より多く日照時間が短かった。その分、焼酎の材料となる甘藷の大きさにばらつきがあった。
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