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僕の微妙な表情を読み取ってからかう。いつの間にか振り向いていた彼女は唇の端を妖艶に上げて、軽く目を閉じた。高校生ってこんなにもアダルトな雰囲気を醸していていいのだろうか? 茜さんならば年齢を詐称するのに苦労はしないだろう。
「で。今日の用事はなんなのかしら」
「はい。今から話します」
僕がこうして彼女に話をして、もっと言えば相談をして、それに答えをくれる……そんな出来事は今日で既に何度目かだった。
初めての相談は僕に関することだった。僕は昨年度、クラスである疑いをかけられて、苦しくなって気持ち悪くなって、偶然に保健室へ逃げ込んだ。そこで茜さんに出会って、話を聞いてもらった。彼女が弁護してくれた。
その恩を死んでも忘れたりはしない。
僕は彼女のことが好きになってしまった。
よく物語で主人公がヒロインを救い、ヒロインが主人公を愛する展開があるたびに疑問に思っていた。
「――そんな簡単なものだろうか。そりゃ嬉しいけど、でも『いいひと』で終わったりするんじゃないの」
それは間違っていた、と僕自身が証明した。僕は自分を救ってくれた茜さんが好きになってしまった。それまでも彼女の姿を見たことは何度かあったけれど、そのときは綺麗な人くらいにしか思っていなかった。
つまりこれは茜さんが単に「美人だったから」とかではなくて、ただ彼女だったから好きになったんだと思っている。
そんな僕のことを歳の近い妹は馬鹿にするし、ミーハーだと揶揄する。傍から見れば僕のはただの一目惚れであるとか、感謝を恋愛感情と履き違えているだけだ、とか。
うるさいよ。
どんなことでも、何が正解でも、僕が彼女のことが好きなことの邪魔にはならない。
助けてくれたとき茜さんは、
「楽しかったわ。こういう謎ごと、他にもあったらもってきてちょうだいね」
僕は苦しかったわけだし、楽しかったって言われることに、少しも、本当に少しも不満がなかったわけではないけれど、それでもまた茜さんに会うことが許されたことのほうが何倍も感情として大きかった。
だから僕は必死に彼女に謎を持っていく。
さながら彼女は探偵で、僕は依頼人との仲介役として。
いつか、そんな彼女の助手になれることを夢見て。
僕は話し出す。
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