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正直、めちゃくちゃに勇気のいる行動だった。僕のメンタルの強度はダイヤモンドとは程遠い。というか、こういうときの僕はミキサーで混ぜ合わせた食材みたいにぐちゃぐちゃだ。
「……いいの?」
辻さんが上目遣いに返す。彼女は真面目だから(少なくとも僕の主観では)、あまり告白の手紙の存在をクラスなどの周囲には知らせたくはないのかもしれない。既に知ってしまった僕は除外するとして。
「も、もちろん!」
少し大きめの声で僕は答えた。
声が裏返らなかったことに感謝しながら、なんとか辻さんの依頼を受ける運びになった。
一応、知り合いのこういうことに強い人――つまりは茜さんにも意見を聞いてもいいかを確認し、同意が得られた。
辻さんは期待に満ちた表情で「じゃあ、またあとでね」と告げると自分の席に着いてしまう。
辻さんの曇りの無さに何か言おうとしたが、言葉がでなかった。僕の申し出が百パーセントの善意かといえばそれは違うわけで、そのことが少しだけ罪悪感を残した。
◆
「どうですか?」
ここまでを話し終えて、茜さんの反応を待った。
「……」
「あの……」
茜さんからの反応がない。彼女は窓の近くにあった椅子に座って、じっと目を閉じて腕を組んで、さらに足も組んで熟考している。こうなったときの茜さんはまるで僕の妹の寝起き並みに反応が鈍くなる。無理に声をかけると、妹さながらに機嫌が悪くなる。僕は無言で、ひたすら待ちに入る。
茜さんをじっくり見る。
見つめる。
髪が長い……。いやほんとに。何年くらい切らなかったらこんな風に伸びるのだろう。
僕は茜さんの髪を「伸びきった」なんて表現しているわけだけれど、まさしくそんな感じだ。
伸びきらなければこんなにならないだろう。語彙が乏しいからこれくらいが精一杯だけど、的確でもあると思う。
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