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それじゃあ本当にどうしようもないような……というか、自信ありげに引き受けた僕は、熟考していた茜さんは果たして一体……。
辻さんにどのように話そうかと考えていると、「あなた」と呼ばれる。
「はい」
「回れ右」
「はい……え?」
突然の命令。口調もどことなく強めだ。
茜さんは足を組んだ膝の上の立てた腕に顎を乗せている。すごく偉そうだ。
「さっさと出ていって」
「ええ!?」
唐突な戦力外通告。僕の心臓は間違いなく飛び跳ねた。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「待たない。さっさと出て行って、辻さんに詳しい話を聞いてきなさい」
「そっちか……」
これは起死回生だろうか? それともただの早とちり? どちらにせよ僕は与えられた役割に安堵しつつ、さながら上官の命令を聞く兵士のように迅速に保健室を飛び出していく。
そのままどこかへ向かおうとして、はて、どこへ行けばいいのか思い悩む。辻さんはテニス部だからコートへ行けばいいのか? いやそれはやめた方がいいだろう。ただでさえ手紙のことで悩んでいるのに、ここで僕がのこのこ訪ねると無用な噂を生むことになるかもしれない。
それに辻さんに何を訊けばいいのだろう?
そこら辺の指定は茜さんにされていない。かといって、言われたことしかできないというのもなんだか格好悪い話だ。僕は今現在、高等教育に身を置くのだから、それくらいの応用力はなければ話にならないだろう。
ひとまず辻さんに連絡をとることにした。スマートフォンを取り出す。今は放課後なので使用していても先生に咎められることはない。
どうして辻さんの連絡先を知っているのかと言えば、簡単に言えば僕と辻さんが特に親しくないから。矛盾を感じるかもしれないけれど、僕たちが教室なんかで急に話を始めたら周りが注目するに決まっている。だから、こうして連絡先を交換したわけなんだけど……なんだかこれって隠れて付き合う恋人同士みたいで少しドキドキする。
緊張するな……。
茜さんが好きなくせに簡単に他の女子にもこのような感情を抱いてしまう僕は割と最低だった。
ひとまず僕は辻さんにメールを打った。
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