3人が本棚に入れています
本棚に追加
『あの、聞きたいことがあるんだけど、会える? もちろん例の手紙のことで』
送信。メールが送られるまでのわずかな間がすごく長く感じられた。やっぱり体感時間というものはあるらしい。よく転ぶときとかにスローに見えたとか、そんな話を聞くけど。
メールは思いのほかすぐに返ってきた。
『いいよ。今さっき部活終わったから。えっと、どこ行けばいい?』
なんだろう。すごく可愛い。
返信する。
『じゃあ、学校裏の公園、わかる? そこで』
窓から外を見てみれば陽が真っ赤になって、どこもかしこも薄めた赤色の水をかけたようになっている。すごく綺麗だ。
茜色……って言うんだったか。こういうの。茜さんもこの空を見ているんだろうか。僕と同じく、この学校から、僕は廊下で、あの人は保健室で。なんだか、漫画のワンシーンみたいでジーンとくる。早く話を聞いてあの人のところへ帰らなければいけない。
着信があった。
辻さんからだと思ってメールを開く。しかし差出人は茜さんで、
『私は帰るから、明日話を聞かせなさいね』
……現実はやっぱり展開が違う。
2
茜さんが帰ったあとにも僕の仕事は続く。
約束の公園へと向かい、ベンチに腰を掛けていると、自転車を漕ぐ音がして、やがて敷地内に人が入ってくるのが見えた。砂利がタイヤで潰される音が結構心地いい。
空はもう薄暗くなり始めていて、確信はしていても、遠目にはそれが辻さんであるという確認はし辛かった。
「ごめん。片付けがあって少し遅れちゃった。大丈夫?」
辻さんが申し訳なさそうにしながら自転車から降りた。スカートの乱れを軽く直して、風でズレた前髪を押さえつけている。
「あ、うん。こちらこそごめん。そっちこそ大丈夫?」
急に呼び出したものだから悪いと思いながら僕も謝る。……しかし、まさか茜さんが帰ってしまうなんて。まあ、でも、時間も時間だから仕方ないだろう。
生徒は六時半には校舎を出なくてはいけない。茜さんはあまりいない保健の先生のかわりの如く保健室にいるから錯覚してしまうけど、あの人もただの一生徒に他ならない。
最初のコメントを投稿しよう!