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「うん。大丈夫。それで……聞きたいことってなにかな?」
真剣な表情で僕の隣に腰を掛け、訊ねてくる。きっと僕が何らかの手掛かりを見つけたんじゃないかとか、だからその手掛かりの補強のために話を訊きたいんじゃないかとか……そんなことを思われている気がする。
申し訳ない……。
「いや……その、手紙のこと。心当たりとか、ない?」
「へ? えっと、こないだも言ったけど、ごめん、ないんだ」
「あ、そうだよね。この間言ってたよね……はは、ごめんごめん」
空気は一瞬にして萎んでしまった。完全に持て余した感じ。すさまじい速度で空気をおかしくした自分に嫌気が差す。
「あ――」
あの、と口にしようとしたところで、僕のズボンポケットの中にあるスマートフォンが震えた。学校内ではマナーモードにしているんだけど、校舎を出てからいつもこのモードにしている。
「ちょっとごめんね」辻さんに断りを入れてからメールを開いた。差出人は茜さんだった。
『どうして手紙の送り主が名前を書かなかったのかを考えなさい』
シンプルにそれだけが書かれていた。
どうして……? 名前を……。
茜さんの連絡先が僕のアドレス帳に刻まれてから数度しかメールをしたことはない。それも、毎回こんな感じのメールだった。
少しこの文面の意味を考える。そしてすぐにピンときたことがあった。
「ねえ、辻さん。どうして手紙の送り主は名前を書かなかったんだろう」
「え?」
「だってさ、書かなきゃどうしようもない。桜の思い出とかいうやつにも辻さんは心当たりがないわけだよね。じゃあ、返しようがない。もしかしてさ、この人、直接振られたくないんじゃないかな」
辻さんは困惑していた。きっと僕の言う意味を図りかねているんだと思う。
ああ、どうして僕はこう口下手で、非論理的で、説明下手なんだろう。もっと上手い言葉が僕の中にだってあるはずなのに。
言いたいことはこうだった。
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