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【 月夜の話 】
とある、城の中にて…
六三郎は、腑に落ちないながらも
「……わかりました。それならば、明日に。」と、有無を唱えず承知した。
やっとお目見え叶った、美しいと評判の姫君からの話だからだ。
城を出てからの六三郎は、長いこと、夕暮れの河原に座り込んでいて、今やっと腰を上げたところだった。
姫君に会えたと言うのに、晴れない表情で畦道を歩いている。
いつしか、一面を照らし始めた月明かりが、六三郎のあっさりした顔立ちにも陰影をつけるものだから、神妙さが増して見える。
腕を組み、右手で顎を擦りながら…、家に着くまでの間、姫の言葉の意味をずっと考えていた。
「ふむぅ…
『これは、着飾って座しているのみ。
満月の夜に、水鏡の池を覗いてくだされ。
そこに映るものが、妾の真の姿じゃ。』
…何が映るというんだ。
満月ってこたぁ、やっぱり、月か?
いや、考えたって、わかりゃしねえ。」
頭を振り、吹っ切ろうとしても、思考は止まらなかった。それは夜通し続き、六三郎が高イビキをかき出したのは、朝日が昇り始めた頃だった。
そして、その夜。
良く晴れて、月はまん丸に満ちている。
「よし!」
六三郎は気合いを入れた。
池までは遠くないのだが…なにせ、事情があるものだから、腰がちと重い。
それでも、月が高くなる前には…と、気合いを入れて家を出たのだ。
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