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謁見の間にて。
虫籠に入れた蛙を前に置き、頭を低くして待つ六三郎の前に、少し間をおいて姫が座った。
そして「蛙……?」と、か細い声で呟いた。
「へえ。あの池の、睡蓮の葉の上におりました。」
「葉の上、とな?」
「へえ。その通りです。」
「………上ではありませぬ。池の、底じゃ。」
―――――そこ…底!?
「あの、底で御座いますか!?」―――あの、深そうな!?
六三郎は驚きの余り、顎が外れそうなほどに口が開き、思わず伏せていた顔を上げてしまった。
姫と目が合い、慌てて顔を伏せた。
伏せる理由は、顔を直視することが無礼なのもあるが、噂に聞く想像より遥かに美しかったこともあった。
心臓の音は早まり、おかしな汗が出て、謝る声は上擦り…もう、思考が止まりそうだ。
姫の、右の袂が畳を擦る音がして、くすくす…と小さな笑い声が聞こえた。その音の様子から、「姫が口元に手を添えて笑ったのだ」と、六三郎は察し、恥ずかしさは増したが、胸の強張りが解かれ救われた。
次は池の底の物を持ってくると約束をして、再び池に向かった。
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