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池に着くと、先程と同様に、前後の案内人は後方へ下がった。
池を前にした六三郎は、暫し、月を見上げた。
やがて腰に両手を当て、池の底を覗き込んだ。一度目より深い所まで、しっかりと見ながら、中央から左右を見つめた。水は澄んでいて、池の底まで月の光を通している。
――――――――――――――――――っ!
驚いた六三郎は、出ない言葉が喉を押してくるような感覚になった。しかし同時に、それが姫の言う物だと確信した。
勢い良く帯をほどき着物を脱ぎ、一瞬動きを止め…少し迷って、褌も放り投げた。
後方の、やや若い案内人は、眉間に皺を寄せて、空へと目を逸らした。そして、溜め息をつきながら俯き、胸の中で「こんな つまらぬことで動揺するとは。」と反省した。ちらりと見た相方の姿に、尊敬する思いが増した。
先頭側の案内人は、遠目には動じずに立っているように見えたが、ちゃっかり目を閉じていた。
2人の反応など気にする余裕のない、六三郎。池に片足をつけると、さほど冷たくはない。腕や胸元にも水をかけて体を馴染ませ、「よし!」の気合いの一声のあと、大きな音と水飛沫を上げて飛び込んだ。
案内人たちは、波立ち睡蓮の葉が揺らされた水面を見つめ、無言で六三郎を見守っている。
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