【 月夜の話 】

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六三郎が廻る思考を言葉にできずにいると、その沈黙を姫の声が止めた。 「此度は、本当に、大義であったな。 お礼に…この城の主になるのは、どうじゃ?」 「え!?」 ――――――――これは、姫様と夫婦になるという意味か? …いいや、落ち着け。そんな大それた事を、姫様一人で決められる訳ねぇ。 「あのぅ…その、」と、口調がまごついた六三郎は、右手の平で額を拭った。こめかみから流れた物が汗なのか、池に潜った時の水が滴り出たのか、六三郎にはわからなかった。そんなことより、紡ぐ言葉選びに集中していた。 「あ…主ってことは、その、やっぱり…その、姫様と夫婦になるという…」 元より口下手な上に、言いにくいことを、やっとの思いで六三郎は伝えた。 「そうでは ありませぬ。  貴方の御陰で、やっと、妾は此処から離れることができるのじゃ。  それを成し遂げた其方には、城主になる権利がある。」 「………有難い話ですが、城主だなんて、器じゃありませんので。」と、六三郎は肩を上下させて深く礼をした。 「欲の無い…。」 姫はその言葉を、どんな表情で呟いたのかは六三郎には見えず、声の色で察するのみだった。 ―――――欲ならあるさ。 城から離れたいなら、此処を出て一緒に暮らしませんか…と、言えりゃあな…。 「本当に……良いのか?  城の他には、変わりに差し上げられるような物は ありませぬ。」 「へえ。姫様が居ないんじゃ、城に住む意味も価値も、ありゃしません。  …行きたい先は、決まってるんですか?」 姫は、晴れやかな清々しい笑顔で「はい。」と、頷いた。 「次の城主が居ないなら………  此れにて、つまらぬ遊びも終いじゃ。  長かった…。」 ―――つまらぬ遊び? 「堅苦しいのは、もう良い。  妾とて、元はそこいらの馬の骨じゃ。  …六三郎殿…、顔が見たい。」 「いや…しかし…」 「(おもて)を上げよ。」
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