【 月夜の話 】

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翌日。 六三郎は、日が真上に届きそうな頃に目覚めた。 枕元に置いて寝た物を見ると、こうべは白く形を残し、着物は艶やかなままだった。 昨夜のことを思い出しながら、(あわ)を食べ、窓の外を眺めた。 気になると尻がむずむずとし出し、じっと座ってられない性分で、そんな時の六三郎の姿は まるで勉強に飽きた子供のようなものだ。粟を掻き込み、茶を一気に飲み、慌ただしく外へ飛び出して行った。 遠くからでも見えていた城は、崩れ落ちたのか、大工たちが解体したのか、もう見えなくなっていた。 城下の方では、六三郎の予想通り、人集りができて賑やいでいる。 「よぉ!」と声を掛けて来たのは、二軒隣りの甚六(じんろく)だった。「おめぇ、知ってるかい?」と言ってきたので、六三郎は知らばっくれて「何がだい?」と返した。 「城が建つんだとよ!」 「え!建つ!?新しいのが…?」 「新しいに決まってるじゃねぇか、これから建つんだ。  おめぇ、さては寝起きだな?頭ん中まだ寝てらぁな?」 と言って、甚六は笑って六三郎の肩を叩いた。 「古い城は?片付け中かい?」 「はぁ??  やっぱり寝ぼけてやがるな。  あすこは随分長いこと草地じゃねぇか。」 「え…。」 六三郎は血の気が引くような、背筋が冷えるような、嫌な感覚を覚えた。 考えるより先に体が動いていて、人の波間をすり抜け、足早に城門の手前まで行った六三郎だったが…… 池や庭だった所は草が生い茂り、六三郎の視界には一面の緑しか映らなかった。城や石垣はおろか、あの大きな門すら消え去っていたのだ。 そして、古城のあった場所に新たに城を建てようとしていることが、身分の高そうな数人が大きな身振りで話し合う様子から伺えた。 甚六の言う通りだった。 「どうなってんだ、甚六…。  昨日まで、あったじゃねぇか」 「夢でも…あ!さては、夢で俺らより先に城を見たんじゃねぇか!?正夢ってやつよ!  それか、あれだな…狐か狸だ。」 「狐…そうかもなぁ。」 そう呟いた六三郎の目は切な気で、遠くの何かを見つめていた。
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