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「野々原くん? 君に客人が来ているよ? 結構、情熱的な」
203号室のドアを叩くと、ガチャっとドアが開いた。
「情熱的な客って、その人に失礼じゃ……」
瑞貴は寮長の隣にいる俺を見て、言葉を失い、同時にドアを閉めようとした。
寮長をやっとの思いで説得して、ここまで来たのに瑞貴にドアを閉められて終わり、なんて嫌だ。その思いが閉まるドアに手をかけさせた。
「待って! 瑞貴……だよな?」
瑞貴は無言のまま。そして少しして瑞貴は言った。
「ミズキ? 確かに僕の名前はそうだけど、僕は君のことは知らないよ。噂の転入生くんだよね?」
ドアの隙間が小さすぎて瑞貴の顔は見えない。声変わりだってしていてあの頃とは少し違う。でも、声が変わったって顔が見えなくたって、瑞貴のことを俺がわからないはずがない。
「そんなはずない。野々原瑞貴。それがお前の、瑞貴の名前だろ?」
「僕は知らないってば。もういいだろう?」
この四年間、瑞貴のことを考えなかった日はなかったといってもいい。瑞貴本人よりも瑞貴のことを考えた自信がある。
でも、俺の目の前にいるはずの瑞貴は俺を拒否した。
その場に泣き崩れそうになった。あの日のように。閉まるドアにもう一度手をかける勇気も気力ももう残ってなかった。
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