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「あれれ、ふられちゃったね? 君等、知り合いなんじゃないのかい?」
寮長はしゃがみ込む俺とドアを交互に見て言った。寮長もこの状況はおかしいと思ったようだった。
「知り合い、というか友達だと……思っていたのは俺だけだったのかもしれないですね。」
とりあえず今日は帰れ、と寮長に言われ俺は帰路についた。
帰ったところで気持ちが晴れるはずもなく、まだ瑞貴に会わないほうが気持ち的に安定していたようにすら思えてならなかった。
しばらく凹んでから、決めた。俺は、「寮で」一人暮らしをする。
両親にもその意を伝えると、普通に一人暮らしを始めるよりいくらか安心できる、と賛成のようだった。
もちろん瑞貴の話は両親にはしていないし、する気も全くない。
親に入寮申請等の手続きはしてもらえたので、明後日からは寮での生活が始まる。
次の日も隣は、瑞貴は教室には来ていなかった。まずまずどうして保健室にいたのかを聞くことができなかった。会えて、それだけで嬉しかったから。
休み時間、転入生というだけで人は何人も集まってきた。前の席の立花は何かといろいろ教えてくれて昨日も助かったが、俺は用があるからと教室を抜けて保健室へ向かった。もしかしたら今日もいるかもしれない、という期待を抱いて。
昨日の今日で会いに行って、また拒絶されたら俺は結構、精神的にきつい。でも会いに行かないよりかはずっといいはずだ。
「野々原くんいますか?」
失礼します、と昨日とは裏腹にしっかり挨拶をして室内に入った。廊下とはまた少し違う保健室独特の匂いは鼻にきた。
「あら、昨日の子。野々原くんならここにいるわよ」
先生の目の先には保健室の机で教科書やらノートやらを広げる瑞貴の姿だった。
「瑞貴、やっほ」
後ろから声をかけると瑞貴はたいそう驚いたように体をびくりと震わせ、振り向いた。
「き、昨日の転校生くん。何か用があるのかな?」
昔と変わらない少しおっとりとした話し方。不甲斐ないけれど、それだけで泣きそうだった。
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