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「いいや、瑞貴と仲良くなりに来た。俺ら、同じクラスだからさ。」
「……そうなの。友達を作りたいなら、教室にいる子と話したらいいじゃないか?」
「君がいいからここに来た。瑞貴、俺と友達になってよ」
手を差し出すけれど、不満げに俺の手を見つめるだけで手を出そうとはしない瑞貴に、俺は勝手に瑞貴の手を取り握手をした。
握った瑞貴の手は思いのほか細く、小さかった。
「そうだ。俺は木村悠斗、自己紹介していなかったよね?」
「僕の名前は知っているみたいだったね。せっかくなら名字で呼んでよ。慣れないから」
「いやだ、瑞貴呼びは変えないから」
これだけは譲るわけにはいかなかった。瑞貴と俺が仲の良かったシルシ。もうこれしか残ってないから。ここで、名字で呼ぶようになったらもう一生、前の瑞貴のようには心を開いてくれない。
「ねえ瑞貴、なんで教室にいないの?」
俺の問いは学校中に響く予鈴によってかき消された。まるで、瑞貴にそれ以上踏み込むなとでも言われているようで、すべてが瑞貴の味方みたいで、心が冷えた気がした。
教室で授業を受けていたっていつだって視線は隣の席へ向いてしまう。瑞貴がどうして俺を避けようとするか、そんなことが俺にわかるはずもなかった。
「瑞貴、途中まで一緒に帰ろうよ。」
昨日のように帰られてしまわないように俺はホームルームが終わった瞬間に保健室までダッシュした。
「き、むらくんは寮に住んでないでしょ?」
「その呼び方は! やめてくれ……。」
木村くん。まるで俺たちは赤の他人のような関係になってしまったみたいだった。俺だけが親しげで、俺だけが心配していて。名字で呼ばれてしまったらもうただのクラスメートだ。
「……。ごめん、今日はまだ帰らないから」
そう言うと下を向く俺をよそに瑞貴は保健室を出て行った。
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