見える

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冷たくて硬い床の感触が腕に伝わる。 身体中が痛い。 なんで僕、床に寝ているんだっけ。 鈍る頭にぼんやりと意識が戻ってくる。 ああそうだ、階段から落ちたんだ。 なんだか唇に柔らかいものが当たっている気がする。 胸のあたりが圧迫された後、すっと入り込む空気が心地いい。 橘は? 血の気が引いた。僕は無事みたいだけど彼女は? 薄らと目を開ける。 頬に落ちる温かい雫。 「日比君……!」 彼女は大きな瞳からぼろぼろと涙を零す。 ああ、なんて綺麗なんだろう。 指先で宝石のような雫を掬った。 「怪我は無い?」 僕の問いに何度も頷く橘。 良かった。 心の底から安堵する。 ああ瞼が重い。 安心したら疲れがどっと来たみたいだ。 震える橘の手を握る。 僕は大丈夫。 そのまま僕は意識を手放した。
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