2人が本棚に入れています
本棚に追加
「橘ってさ、いつも何やってんだろうな」
クラスメイトの谷中が首をかしげながら言った。
「あー、あの手?気になるよなぁ」
「不思議ちゃん、ってやつ?せっかく美人なのに勿体ないよな」
教室の隅の方で数名の男子生徒たちがひそひそと噂をする。
僕はそんな言葉を聞き流しながらちらりと窓際に目をやった。
くるくる、きゅ。
噂の本人、橘 雪乃は真剣な顔で空中を見つめる。
そこから何かをつまみ、引っ張る仕草をすると今度はそれを結ぶように手を動かした。
ひとつ、もうひとつ。
忙しなく動く手は止まらない。
「橘、成績良かったっけ?」
「バカ、良いどころか学年一位だぞ」
「うっわまじか。頭の良い奴のする事なんて俺らにはわかんねえよ」
確かに、と笑い合う男子生徒たち。
くるくる、きゅ。くるくる。カシャン。
彼女の伸ばした腕が置いてあったペンに当たる。
机から転がったペンは僕の近くで止まった。
「どうぞ」
僕はペンを差し出す。
「ありがとう」
左手は空中をつまんだまま。
彼女は透き通るような瞳に僕を映す。
その目で、君は一体何を見ているのだろう?
最初のコメントを投稿しよう!