見える

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僕は仕方なしにテキストを持ち上げた。 およそ20冊は超えているであろう分厚いそれは、容赦なく僕の腕を苦しめる。 こんなことなら筋トレでもしておけば良かった。 なんて後悔したところで遅いけど。 数学の授業はコース分けされている。 得意な人たちは特進、苦手な人たちは普通コース。 どうやらこのテキストは特進の人たちのもののようだ。 課題の提出率が高いところからしても僕たち普通コースとはレベルが違う。 数学準備室は確か5階だったはずだ。 ……5階までこれを運ぶのか。 思わずため息が零れる。 ふと、窓を打ち付ける雨が強くなった。 しばらく止みそうにないな、と空を見上げる。 今朝、夢を見た。 放課後を目前に、突然降り出す大雨。 傘を持たずに濡れながら帰ったせいで風邪を引き、おまけにおろしたてのスニーカーはどろどろ。 なんていう、実に楽しくない夢だ。 だから今日は傘を持って来たし、スニーカーはいつもと同じもの。 案の定崩れた天候に、ほっと胸を撫で下ろす。スニーカー、汚さず済んで良かった。 僕は何故だか昔から勘がよく当たる。 明日、友達が熱で学校を休むかも。 3時限目の英語、自習になるかも。 ここ、テストに出るかも。 癖みたいなものだった。 ほとんど無意識に『 こうなる気がする』と、なんとなく予感する。 それが偶然当たるのだ。昔からずっと。 今朝みたいに夢を見たり、パッと頭に浮かんだり。映像のように、これから起こることを思いつく。 逆に、意識して先のことを考えると全然当たらない。 だから、『未来予知』だとかいう能力を持っているわけでは無い。 そもそも特になんの取り柄もない僕はごく一般の男子高校生だ。 きっと勘がよく当たるのも偶然に過ぎない。
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