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後で謝っておかないと。
汚れてしまったテキストを手で払う。
「すみません、ありがとうございました」
先生から本の束を受け取ろうとしたその瞬間だった。
ぐらりと視界が歪む。
同時に頭に飛び込んでくる映像に、意識がかすみそうになった。
薄暗い校舎の階段。
くるくる、きゅ。
いつものように空中に手を伸ばす橘。
1人で壁にもたれながら何かを摘む。
向かいの壁にかけられた時計がカチリと動いた。
針が指すのは5時丁度。
顔を上げた彼女が、突然焦ったように身を起こした。
慌てて空中を掴んだ彼女は目を見張る。
濡れた階段に滑らせた足。
ぐらりと身体が傾いたその先は、
階段の下。
そこで映像は途切れた。
まずい、と思った。
僕の勘はよく当たる。
悪いものは特に。
早く、行かなきゃ。
橘を助けに。
「大丈夫か!?」
座り込む僕の背中を先生がさする。
「っ、先生、これ頼みます……!」
「えっ……ちょっと!?」
僕はテキストを押し付けて走り出した。
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