見える

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「橘……!」 掠れて声にならない。 橘は気付く様子もなく、空中を見つめる。 早くそこから離れてくれ。 僕の願いも虚しく時は進むのを止めない。 カチリ。 時計が動いた。 あの映像と同じだった。 慌てた彼女が手を伸ばす。 守らなきゃ。 気付いたら地面を蹴っていた。 僕はもう無我夢中だった。 滑った足にぐらりと身体が傾く。 目を見張る彼女がスローモーションのように、はっきり見えた。 「橘!!!!」 僕はほとんど悲鳴のように彼女の名前を叫んだ。 僕の手が橘を掴む。 そのまま彼女を強く抱き寄せた。 ガツン、と腕が階段にぶつかる。 もつれた脚は酷く打ち付けられた。 次々と襲いかかる衝撃に身を強ばらせる。 腕の中の華奢な身体を抱きしめる。 もう、彼女だけでも無事ならそれで充分だと思った。
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