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甘い水
「悟のお祖母ちゃん、怖いよね」
近所の男の子にそんな話をしたのは小学何年生の頃だったか。
「怖くないよ。なんで」
キョトンとした悟の顔を今でも覚えている。
「だって私のこと、いつも睨むんだもん」
「あ、それ、たぶん祖父ちゃんのせいだ」
悟は私の耳にだけ届くような小さい声で続けた。
「弥生の祖母ちゃんのこと好きだったんだって」
「悟のお祖父ちゃんが?」
うん、と悟はまじめな顔でうなずいた。
「初恋とか言ってた」
私の祖母は若くして亡くなっている。たしか35歳かそれぐらい。写真で見ると女優みたいにエレガントな雰囲気の美人だ。
「祖父ちゃんと喧嘩すると、あんなあばずれって祖母ちゃんが怒るんだ」
「あばずれって何」
「……わかんない」
悟が本当にわからなかったかどうかは怪しい。
中学生になってから知ったのだが、うちの祖母はあばずれとして有名だったらしい。同級生の誰かに言われ、すごく嫌な気持ちになった。子供が口にしていい言葉ではないけれど、その子は大人の秘密を知ったつもりで得意だったのだろう。
本当かどうか、両親や祖父には聞きにくかったので、近所に住む叔母にこっそり尋ねてみた。
「大嘘だよ」
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