サヨナラをあなたへ

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 今から3ヵ月以内にたった一度、たった一人、たった一言だけ大事な人へと笑顔の別れを告げる事を許可してあげましょう。それが済んだ後、あなたの魂を天国へとお連れします。 「サービス精神旺盛っていう割にどこかケチ臭いサービスよね」  神からの言葉を思い出した私は思わず嘆息した。  3月10日。今日がそのサービス期間の最終日だ。  本当は目の前の親友2人にも言いたいことや伝えたいことは沢山ある。  でも私はアキちゃんにも、カノちゃんにもこのサービスを使うわけにはいかなかった。  本当に自分の言葉を聞かせてあげるべき人物がいたからだ。  やがて教室からは少しずつ人が去っていき、夕暮れ時には誰もいなくなっていた。 「……そろそろか」  教室の壁に掛けられた時計を見ながら私がそんな独り言を零すと、開けっ放しにされていた扉から一人、片手に一輪の花を持った短髪長身の男子生徒が入ってきた。  彼の名前は植草太一。私が死んでからの3ヵ月間、休日以外のほぼ毎日私の机を拭き上げ、仏花を差し替えたりしてくれた優しいクラスメイトだ。  そしてこの男子生徒こそ、私が神からもらったサービスを使うべき相手なのである。 「よう、山岸。お前の机磨くのも今日で最後だ」  植草は誰もいない教室でたった一人呟きながら私の席の上に置かれた花瓶をどかし、机を磨き始めた。     
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