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「よう、植草。あんたなら多分卒業式の日も磨きに来るだろうなって思ってたよ」
届かない声を植草の背中に投げかける。
当然返事はない。
「サッカー部の送別会抜けてくるの大変だったんだぞ。感謝しろよな」
柔らかく、優しい声色で彼は悪態をつく。
「全く、今日で俺卒業しちまうんだぞ。告白の返事を聞かせてくれるんじゃなかったのか」
机を磨く手を休めることなく、なおも彼は呟いた。
「だいたいなー、俺が告白したその日に死んじまう奴があるかよ」
「……ごめんね。植草」
私は植草の正面に立ち、頭を下げる。
3か月前、彼から告白を受けた自分はすぐに返事することを避けた。
彼が私に対して好意を持ってくれたことは正直嬉しかった。
だが同時に恐ろしくもあった。今まで友人として楽しい時間を過ごしていた関係性が変わってしまうことが。
何も今すぐに答えを出すことは無い。そんな楽天的な考えで私は返事を保留にしてしまい、その日の帰り道でトラックに撥ねられたのである。
「なぁ山岸。どうして死んじまったんだ?」
机を磨き終え、花瓶に新しい仏花を刺した植草は尚も主人を失った私の席へと話しかけた。
「生きててくれたなら、別に友達のままだってよかった」
「植草……」
「俺、またお前に会いてーよ」
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