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そう言葉にする彼の頬に一筋の涙が伝う。
「せめて、声だけでも聞きてーな……」
何故今日まで私が神からのサービスを使わなかったのか。
正直に言うと植草に対して何と言って別れたらいいのか解らなかったのである。
この3ヵ月、自分の机を磨き続ける植草の姿を見ながら私は生前の彼との思い出を思い出し続けた。
高校に入って初めて出会った時の事。
放課後たまに窓から見かける部活中の彼の姿。
都内の映画館に2人だけで行った事。
くだらないことで本気の喧嘩をした事。
風邪をひいて学校を休んだ日にお見舞いに来てくれたこと。
夏祭りで一緒に見た花火。
植草太一という男子と一緒にいた記憶。そのどれもが大切な大切な思い出で、振り返るたびに彼を愛しく感じてしまうのだ。
「植草。私、あんたが好きよ」
つい本音が口から零れてしまう。だけど神からのサービス中にこの言葉を口にするわけにはいかない。
何故なら私はもう死んでいて、彼はまだ生きているから。
植草にはまだ長い長い時間があり、その中で素敵な人と出会う瞬間もきっとある。
その貴重な時間を、もうこの世にいない存在が縛るわけには行かない。
「ごめんね植草……」
泣いてはいけない。笑顔でいなくては。
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