望んでなかった再会

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美恵は不服そうに 出目金みたいに大きい目玉の焦点を 雪尋から俺に移した。 けれど、俺が目を細めて睨み返すので 不細工な唇を尖らせて目を伏せた。 「その人は悪魔なんです。 ある日突然、私の家に来て 私の母をおかしくした、最低な男」 テーブルの上の端から ストローを一本取り出して 弄びながら口を開く美恵。 「学校でいつもケンカばっかりして、 女の子にケガさせて謝りもしない。 勉強もロクにできないのに、 私のお父さんに甘えてばっかり。 近所のおばさん達にヒソヒソ言われて お母さんに嫌な思いさせて 私達の家族を壊しに来た悪魔なんですよ。 そんな人をどうして」 「そういうお前こそ」 美恵の口から出た話は単なる事実。 その単なる事実が、彼女に対して 醜い報復の言霊を沸き起こさせる。 「小学生の癖におばさんの化粧品使って 酒やら煙草やる連中とつるんでんだろ。 それでいつも帰り遅ぇじゃねぇか」 「な、はぁ!?変な言い掛かりやめてよ! 友達居なくていっつも一人のアンタが」 美恵はテーブルを叩いて立ち上がって 俺に食って掛からんばかりに迫るが 堰を切ったように俺の口は止まらなかった。 「何が言い掛かりだ? 現にお前、香水臭ぇんだよ。 友達欲しくて、あんな連中と 夜遅くまで騒ぐのがそんなに楽しいかよ? あと、彼氏とか言ってたけど あれお前が一方的に付き纏ってるんだろ。 完全にストーカーだからな、お前。 めっちゃ迷惑してたぞ、あのスズキって奴。 大人の真似してる幼稚なお前のが よっぽどおじさん達の恥になってるだろうよ」 俺がそこまで言い終えると 美恵はニホンザルの様な顔で俺を睨む。 「何よ!最低男!社会のゴミ! クズ、カス、死ねば良いのに!!」 美恵は甲高い声で俺を罵倒すると 自分の前のコップを掴んだ。 持ち上げざまに冷水が 俺の頭上を目掛けて落ちる。 すると、視界は突然一面に黒に染まった。 美恵の立ち去る足音と ファミレスの扉が乱暴に開けられては 無情に閉じられていく音を俺の耳が捉えた。 ふわりと俺の鼻をくすぐったのは煙の香り。 予定していた冷覚は少しも働かなかった。
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