ある部屋にて

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 男は無気力に過ごしていた。何もする気が起きずただぼうっとソファに座っていた。  脱出するための手段が、何も思いつかない。何をしても無駄だということが男にはわかってしまった。  男が何の気もなしに、真っ白でつまらない床を眺めていると、ふと、埃が積もっていることに気づく。そういえば掃除用家具を使っていなかった。だが、掃除する気にもなれない。男はただ埃を眺めているとある事に気づく。 (埃が薄くなっている…?)  男はガバリと飛び起きる。そして埃の畔道を追った。薄い段差のそれは、壁に続いている。白い壁に同化していてわからなかったが、壁の隅から風が入り込んでいるのだ。 (そうだ、通風孔だ!)  男はそれに気づくと壁にキスできそうなほど近づき、叫び声をあげる。 「ここだ!助けてくれ!私はここに居るんだ!誰か!誰かいないのか!私はここの元役員だぞ!誰か!気づけよ!」  彼の声の残響以外の音は返ってこない。 「誰か…」  男の声は急速に萎んでいく。しかし男はハッと気づくと机の上にあった本を破り始めた。 (声は届かなくてもここは外につながっている、メモを落とせば…!)  メモはひらひらと落ちていく。祈りながら見送ってしばらく待ったが音沙汰は無かった。 「なんで………」
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