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誰とも連絡の取れない日々を過ごした男は完全に人間社会から弾かれてしまい、奇行と落ち込みを繰り返す毎日を過ごしていた。きっとなんとかなると気分が浮ついたかと思えば、次の瞬間には自分は誰にも気づかれないまま死んでいくのだと号泣する、という不安定さだった。
ある日、男は全裸で踊っていた。深い意味はなく、単に寂しさを誤魔化そうとして身体をむちゃくちゃに動かしたかっただけだ。その時、男は部屋の一部分に積まれていた本の山を蹴っ飛ばしてしまった。
男はそれを憎々しげに見る。全裸の男が本を憎しみの籠った目で見ている光景は、客観的に見ればかなり危ない構図だが男にはわからなかった。男の心にはこの部屋に入る元凶になった仕事への憎しみしかなかった。
「こんな目にあわせやがって!」
と男は本の山を蹴飛ばして辺りにまき散らした。少しだけ胸がスカッとした。
ふと本の挿絵がたまたま目に付いた。今どき写真では無く手書きの絵だった。
それは神を描いた絵だった。極上に上手いというわけではない、想像しやすい聖人君子が微笑んでいる平凡な絵だ。
男はそれを見て雷に打たれたような発想を得た。
(神様とは…こんな私を見ても優しく微笑んでいるのか?)
男以外からすれば、蹴り飛ばした本が開いたのは偶然であり、そこに神をモチーフにした絵が描かれていたのも偶然であり、それが男の視界に入ったのも偶然にしか見えなかっただろう。
しかし、男からすれば、今最も求める自分への声かけに思えた。
(こんなフルチンの男を…神は見ているのか?)
男は目を瞑って深く息を吸って、吐いた。そして目を開いて部屋を見渡すと、脱ぎ捨てたままの服や散らばったままの本や荷物で雑然としていた。
(…私がすべきことは、信じて救いを待つことじゃないのか?)
男は、その本を手にしたまま立ち尽くした。管理された快適なそよ風を全身で感じた。
(少なくとも、全裸で踊る事ではない…)
男はまず服を着ることにした。
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