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(家に帰ってもどうせ独りだ。)
帰りたくない。男は呟いた。
しかし、仕事が終わったのにいつまでもここにとどまっているわけにはいかない。例え、食事が自動で出てきて、風呂トイレとベッド完備でテレビやインターネットもあり、どれほど快適な場所だったとしてもだ。
男はため息をついて椅子から立ち上がり、荷物をまとめ唯一外へ繋がる扉へ向かった。『あなただけの空間を!』をコンセプトに作られたこの部屋は、外界を意識させないように扉を開けるまでは継ぎ目が見えないので、ドアノブがないとそこにドアがあるなんてわからない。ドアノブの前に立って再び思う。
(帰りたくないなあ…)
帰りたい家が無いなんてと自嘲してドアノブを捻る。
がちゃ、と中途半端なところで止まった。
扉はうんともすんとも言わない。
がちゃがちゃと何度もドアノブを捻るも、扉は動かない。
出られない。
どうしよう。
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