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「おーい、だれかいないか?」
扉を叩くと言った古い文化染みたことをしてみても反応が無い。インターフォンや緊急用の連絡ボタンは勿論試したが効果が見られない。
「全く、管理不行き届きだ!私が居なくなってからこうも緩くなったのか?」
ぶつぶつと呟きながら、机をノックすると、机に穴が開き淹れたての温かいコーヒーがスムーズに出てくる。とりあえず火事や事故などこの部屋で快適に過ごすための機能が損なわれたわけではないようだ。
好きなメーカーのコーヒーの味で苛立ちを抑えながら、ゆっくりと考える。
(ここの設備は完璧だ。)
この会社は最新技術の情報を読者に提供するため、常にそれを肌で感じられるよう社内設備を整えてきた。その甲斐あって、男の勤めていた会社は業界では最も有益かつ分かりやすく情報が手に入ると常に評価されてきた。この部屋はそんな技術の最前線が集約されている。本来なら業務終了時間を迎えれば、ここからスムーズに退社できる。
ということは、やはりヒューマンエラーが原因なのだと男は結論を出す。
おそらく人がこの部屋にいることを忘れて扉の開閉の設定をミスしたに違いない。
「どれだけ技術が進歩しても、ヒューマンエラーは防ぎきれないか…」
今後は二重三重のチェックが必要だな、退役した身だが進言しようと男は再度決心して、もう一度外に出られないか試してみる。
ガチャ。
ドアノブはまたもや不自然に止まった。扉は開かない。
「…いったいいつになったらミスに気が付くんだ!?」
とうとう男は声を荒げ始めた。時間が経てば気づいた誰かが設定を直しに来るに違いないと思っていたが、まだ気づかれていないらしい。
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