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それからさらに数時間後。
さすがに休憩をとろうと、男は糊を使っていた手を止める。気晴らしにニュースでも見ようと机の表面の一部を押し、反動で出てきた半透明の下敷きのような板に映された画面をなぞる。そこには動画サイトから個人サイトまでありとあらゆる情報が映し出されていた。
「………?」
男はニュースサイトを見ようとして、手を止める。
昨日の夜見た時から記事が更新されていない。
どのカテゴリーを見てみても、最新の更新時間は昨日で止まっている。
一般市民が投稿できるくだらないコメントさえ昨日でぴたっと止まるなんて、そんなことありえるわけがない。皆一斉に黙ったと考えるよりも、この部屋だけ電波が届いてないと考えるのが自然だ。
そういえば今日はテレビを見てなかった、と男は思い出しテレビをつけてみる。双方向性でない通信媒体などつけるのは久々だった。
テレビは全チャンネルつかない。真っ暗なままだ。
ゆっくりと男の顔に焦りが浮かび始める。
また机から下敷きのような板を取り出して、今度は電子閲覧できる本を見てみる、コメント機能を使えば要所要所に注釈や感想などが表示されるはずなのに、それすら最新のものは昨日の日付だった。
「昨日から誰もコメントしていない…?」
まるで誰も彼もが世界から居なくなったように。そんな馬鹿なことがあるわけないと思いつつ、思考はもっと悪い方向へ働く。
もしかして、私がこの部屋にこもっている間に、世界で…戦争か災害か何かが起きて皆避難して忘れられてしまったのでは?
いや、むしろ、私の知らないところで滅んでしまったのでは?
最後に人の声を聞いたのがだいぶ前であると気付いて、腹の底が冷える感覚がした。
男はようやく危機感を覚えた。そう、助けは来ないかもしれない。そもそも外が無事であるかも確認できない。
「おい!出してくれ!誰か、いるんだろう!?」
祈りに近い思いを抱きながら男は必死に叫ぶ。
誰からも何からも返事はなく、部屋は沈黙に満たされた。
男は唖然とした顔で、生きていくことだけはできるこの部屋を見渡した。
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