適性検査

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 高倉が診察室を出ると、すでに検査を終えた石井と青木が何かひそひそと話し込んでいる。 「どうしたんですか? まさか……。」 「高倉君、お疲れ様。あ、違うよ。検査のことじゃなくて、ただ……。」 「高倉さん、私、昨日辞表を出したんです。」 青木が言いよどんだところで、石井が答える――辞表? なぜ? 「石井さん、奥さんはそのこと……。」 「もちろん知っていますよ。というか、カミさんが言い出したことなんです。」 「そんな……奥さんの治療は大丈夫なんですか?」  高倉が聞くと、石井は少し困ったような表情を浮かべて笑った。 「それがね、あと1年持つかどうかって言われていましてね……。私としては、1日でも長く生きてほしいんですが……。」 「最近、昇進会議が多いだろ? 前は数カ月に一回だったけど、最近は二カ月に一回くらいのペースだ。先月あったばかりだから今月は大丈夫だろうけど、来月はどうか……。」 「カミさんがね、言うんですよ。“私ひとりじゃ、生きていく意味がない。あと一か月しか生きられなくなっても、あなたと最後まで一緒にいたい”って。」  石井の言葉は、語尾が震えていた。余命幾ばくも無い妻の願いを聞いたときの心境は、いかなるものだったのか。 「そうか……。石井さん。私は、石井さんが決めたなら、それが正解だと思います。」 「ありがとう、高倉さん。今日は適性検査じゃなくて、あいさつに来ただけなんです。じゃぁ、お元気で……。」  石井は何かをやり遂げた人間特有のさっぱりとした表情で言うと、軽く手を上げて去って行った。高倉と青木はその後ろ姿を黙って見送ると、どちらからともなく、深いため息をついた。 「なんというか、すごいですね……。」 「そうだなぁ……。」  二人が言葉を交わしたとき、一斉にスマートウォッチのメール着信音が鳴った。一斉メール……それはつまり――。 『エネルギー供給課社員各位 本日適性検査後、二階大会議室にて昇進会議を行う なお、今回の昇進者は二名とする 以上』
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