幸せ

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幸せ

 「特別部署」という札がかかった部屋の中で、高倉は青木と並んで座り、壁に映し出された映像を見ていた。 映像ではマンパワーコーポレーション創立の歴史と、エネルギー供給課の職務、そして昇進した者に課せられる特別任務が、いかに重要な事であるかが説明されている。 『――人間の生命力をエネルギーに変換することとしました。当初、対象は高齢者に限定し、志願制で運営していましたが、エネルギー効率が悪く、十分な供給量を確保することが不可能でした。そこで政府は当社を設立。最もエネルギー効率の良い、20歳から45歳までの健康な男女を社員として受け入れ、さまざな福利厚生によって幸福な人生を保証することで、栄誉ある特別業務への――。』  特別業務――それは、自らの命と体をエネルギー源として供給することを意味している。 いつからだろう?高倉はそれをすっかり忘れていた。入社して5年、何度も行われた昇進会議で選ばれることもなく、ただ目の前にある幸せな時間を味わうことに夢中で――。 「高倉君……。」  青木が、すでに焦点のあっていない目で呟く。2人の頭部には、生命力を吸い上げ、エネルギーに変換するための装置が取り付けられている。 精神状態が悪いとエネルギーの質が低下してしまうため、この装置は恐怖、不安、怒りといった感情を抑制し、幸福感と快感を強制的に感じさせる電子パルスを発する機能を有していた。 「へへ……なんですかぁ、青木さぁん……。」 高倉の声は泥酔しているように、不明瞭だった。 「検査中にさぁ……電話があったんだよぉ……カヨがさぁ……産気づいたって。」 「えへ……へへへ、おめでとうございます。」 「今がんばってるんだろうなぁ……幸せだよぉ……子どものために死ねるんだからぁ。」 「子どもはいいですよぉ……はじめて抱いたとき……嬉しくて泣きましたよぉ。」 「いいなぁ……私は……娘を抱き上げられないからなぁ……うらやましいよぉ、高倉くぅん。」 「へへへへへ……幸せだなぁ……子どものために死ねるなん……。」  高倉の首が、がくりと落ちた。
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