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リサ
「今回の作品、いまいちだったね。」
昼食をとるために入ったカフェで、リサは少し不満気に言った。すでに30を超えているのに肌の色艶がよく、まだ20代半ばに見えるその顔は、レオを産んだ直後に比べるとずいぶん若々しく、健康的だ。
「そうかな?俺は嫌いじゃないけど。」
高倉は妻の美貌を眺めながら、タイガを授かったことを機に転職して良かったと心底思った。転職していなければ、この街に住むことも、現在のように恵まれた生活をすることもできなかったからだ。
高倉が務める「マンパワーコーポレーション」は、天然資源が枯渇し、各国からの資源輸入もかなわなくなった日本のエネルギー供給を担うために設立された官営企業だ。
マンパワーコーポレーションにはさまざまな部署があるが、エネルギー資源を確保するための中核をなす「エネルギー供給課」は、その職務の特異さから特別待遇を受けることができる。
その最たるものが、本社ビルと国会議事堂を中心に作られたこの街の居住権だ。
この街はエネルギー供給課の社員、政治家、官僚たちとその家族だけが住むことができる「特区」で、エリア外と呼ばれる街の外のように多額のエネルギー使用量を支払う必要がなく、すべてのライフラインを無制限に使うことができる。
遊園地、美術館、動物園などのレジャー施設、各国の料理を楽しめるレストランやバーといった飲食店など、ありとあらゆる娯楽を無料で自由に楽しめる。
時折、エリア外から「出稼ぎ」に来ている人たちが起こす犯罪はあるものの、治安は非常に良い、まさに地上の楽園だ。
また、エネルギー供給課の社員の仕事は月に一度の適性検査と、数か月に一度の昇進会議に出席するだけで、残りの日は自由に過ごすことができる。
ただし、エネルギー供給課に所属できるのは「20歳から45歳までの健康な男女」という制限があり、適性検査で不合格判定が出ると街を去らなくてはならないため、エリア外に追放されたくない社員たちは健康管理に慎重すぎるほど慎重になっている。
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