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高倉がそういうと、青木と石井は店の入り口を振り返る。そこにはすでに足元がおぼつかない状態の桂木と、今年入社したばかりの沢田がいた。「2世」とは、エネルギー供給課社員の子どもたちのうち、親同様、エネルギー供給課に所属することを決めた者のことだ。
「キャー! トウヤくぅん。待ってたんだよぉ。」
店の奥で不愛想に座っていた化粧の濃い女性が沢田の首に抱き着く。この店で働くホステスのヨーコだ。
「ヨーコちゃん。冷たいおしぼりもらえる?」
「桂木さん、また飲んでるのぉ?もう、どうせ飲むならここで飲んでよぉ。」
ヨーコは頬を膨らませながらおしぼりを取りだし、桂木の顔に乗せる。「ちべたっ!」と叫んだかと思うと、桂木が少し眠たげな眼でヨーコを見すえる。
「なんだぁ、ヨーコかぁ。冷えたものなら、こんな布きれじゃなくてさぁ……ビールくれよ、ビール。」
「あ、僕はウーロン茶で。」
「はいはい。ちょっと待っててね~。」
一気に騒がしくなった店内に、青木は苦笑いを浮かべる。
「若いねぇ。ヨーコちゃんだっけ?エリア外から出稼ぎに来てるんだろ?」
「そうらしいですね。確か、沢田君と付き合っているんでしたっけ?」
高倉は一杯目の水割りを飲み干すと言った。バーテンダーがジェスチャーでお代わりを促したが、高倉は断った。
「え、沢田君、あのホステスと付き合ってるの?どう見ても30いってるよ……。心配だなぁ。エリア外から働きに来る女性は、玉の輿狙いでなりふり構わずな人もいるって話だし。」
石井が声を潜めて言う。独身の2世と結婚すると街の居住権を得ることができる。そのため、独身の2世と出会うために「出稼ぎ」をしに来る若い女性が後を絶たないのだ。
「まぁ、エリア外の女性にとって、2世との結婚はシンデレラストーリーだからね。」
「自然に出逢って恋に落ちて……って話ならいいんだけどさ、あからさまに男漁りに来てるのはなんだかね……。おっと、そろそろカミさん投薬時間だ。」
「私も、そろそろ戻ろうかな。」
「じゃあ今日はお開きにしましょうか。また適性検査の日に会いましょう。」
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