酔生夢死

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その生き様もある意味ではロマンティックなものだった。  それに引き替え俺の生き様は凡庸なもので、その当然の帰結として死に様も無様なものだった。俺は、人間理性を働かせ損得を勘定した結果自らの手で人生に幕を引く決断も、生命としてそうした計算を唾棄し最期の瞬間までその火を燃やし尽くすこともできず、凡庸なその他大勢の一人として、自棄になって通り魔を企てた。どうせここに居る人間の一人だって一年後には生きて居ないのだ。ならば、俺に殺されたって構わないだろう。生きることも死ぬことも無意味だとしても、殺すことは無意味ではない。何故ならそれは、俺の好奇心を満たすからだ。それにこうも考えられる。これは救済なのだと。隕石が地球にぶつかって、結果的には全員死ぬ。それは分かる。しかしどうやって死ぬのか。死が具体的にどのような経路で身体にもたらされるのかは誰も知らない。当然、即死できる幸福な人間ばかりでもないだろう。そうであるなら、むしろ今ここで俺が正確に心臓を一突きでもしてやる方が彼らの為ではないか。そうして俺が繁華街まで出向いてリュックから包丁を取り出そうとしたまさにその時、俺は今までに味わったことのないような刺激を背中に受けた。しかし何が起きたのかは分かる。二秒前まで確固として脳内に張り巡らされていた現実感が一瞬で消し飛んだ。そしてそのままうつ伏せに倒され、既に既知となったその刺激を更に数十回と背中に受け続ける間に、刺激は次第に意味を失っていった。意識が霞んでいく。 「分かったかい?」  そして再び、俺は目を覚ます。 「えぇ、分かりました。僕は通り魔に背中をメッタ刺しにして殺されたらしいです」 「そうかい。それで、お前はここで大人しく死んで居られるのか?」 「さあ、どうでしょうね。でも、どちらにせよそうするしかないんでしょう。もしも僕が殺されるより早く通り魔を実行していたら、僕は地獄に行けたでしょう。襲われる人々を守る為に通り魔に立ち向かって死んだら天国へ行けたかも知れない。でも、そのどちらでもなく、しかもただ殺されたばかりではなく、自分が企てていた通り魔に逆にむざむざと殺されてしまう間の抜けた僕のような奴には、このどこだか分からない場所で一生死に続けるのが似合いなんでしょう」
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