143人が本棚に入れています
本棚に追加
/111ページ
わたしの取り扱い方を熟知している夫はそれを予測済みだったようで、チラシの裏にアミダくじを書いてそっと差し出してくれました。
なんかたのしい。
わたしが引き当てたのは、もっともベーシックだと思われるおしょうゆ味スープのものでした。
夫は海鮮風味の白いスープのやつでしたので、半分くらい食べたら「ばくりっこ(取り替えっこ)」してもらおうと思います。
ガスは通っていましたけど、台所も荷物でごちゃごちゃしていたのでマルヒ箱に同梱していたカセットコンロでお湯を沸かしました。
カップのふたをぺりぺりと小さく開けて、そおーっとお湯を注ぎます。
もうその瞬間にいい匂いが立ち上って、おもわずおなかがグウと鳴ってしまいます。
「永遠」とも称されるこの3分間の、なんとまあ長いこと。
きっとワクワクしながら待つからなのでしょう。
どういうわけかちょっぴり罪悪感のようなものを感じるカップ麺は、久しぶりに口にしたこともあってかやっぱりとてもおいしく感じました。
しょっぱ過ぎるスープもそれはそれで風情があり、きゅっと縮れた麺は不思議な歯ごたえを楽しませてくれます。
小さなエビとか圧縮されたミンチのようなお肉とか、炒りたまごやおネギを乾燥させたもの等々、あらためて見ると独特な具材もすごくおもしろいものです。
乾物をお湯で戻すと、生のものとはまた違う旨味が出てきますが、まさしくあの感じです。
そうだ、こんど自家製の乾燥ネギをつくってみよう。
ふいにそんなことを思いつきました。
小口切りネギの冷凍品はいつも用意しているのですが、あえて干し野菜にしておくのも楽しいかもしれません。
「久しぶりにカップ麺食べましたけど、なんだか妙に美味いですねえ」
夫がしみじみとそう言うのがおかしくて、クスッと笑ってしまいます。
でもそのあと、
「伊緒さんと食べると、なんだっておいしいです」
さらりとそう続けた彼の言葉に妙に照れてしまって、
「ばくりっこしよう」
というタイミングを、わたしはすっかり見失ってしまったのでした。
最初のコメントを投稿しよう!