夏祭り!夜店の食べ物って何でこんなノスタルジックなのでしょう

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「大丈夫?ぼんやりして」  いつの間にか目の前まで来ていた伊緒さんが、心配そうにぼくの顔をのぞきこむ。  落ち着け、落ち着け、目の前にいるのは、ただの天女様だ。  その後どうやって錯乱状態から持ち直したのか覚えていないけれど、クンダリーニ・ヨガの火の呼吸についての知識が役立ったに違いない。  伊緒さんが今日お召しの浴衣は、料理のお師匠でもあるおばあちゃんから受け継いだものだそうだ。 「せっかくだから、久しぶりに袖をとおしてみました」  伊緒さんはそう言って照れていたけど、清楚な色と柄が彼女の雰囲気にとてもよく似合っている。  河川敷へと続く人の流れに加わり、並んで歩いていると嬉しさがこみ上げてきてしまう。  横目でちらちらと何度も伊緒さんを見て、時折り目が合うとハッ!と慌てて目をそらす。  なにをしているんだとは思うけど、なかなかやめられない。  建物が途切れて、川を見下ろせるようになったとき伊緒さんが歓声を上げた。  無数の灯籠が次々に流れていき、やわらかな灯火が水面に反射して川そのものが光っているかのようだ。  立ち並ぶ夜店の明かりとは明らかに異質なのは、あれが魂を送る舟だからだろう。
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