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「あ……!もしかして、彼女……?」
伊緒さんとぼくを交互に見比べて、ワナワナと震え声を出す。
いや、その、嫁さん……でして。
なぜか敬語になって言い終わるか終わらないかのうちに、
「ちょっ…!おまっ!……ちょっ!」
と、これまた懐かしい拳を「にくきゅう」の形にしたパンチを繰り出してくる。
すると奴の背後からかわいらしい女性と、小さな男の子がひょこっと顔をのぞかせた。
「うん、俺の嫁さんと子ども」
ドヤ顔で申告する奴に、今度はぼくがにくきゅうパンチを多めにお見舞いしてやった。
お互いのお嫁さんが、笑ってぺこりとお辞儀を交わしている。
連絡先だけ交換してすぐに別れたけど、なんだかうれしい再会だった。
あれから時が過ぎて、それぞれに幸せをつかんで、家族を連れてこの夏祭りに来ているんだ。
そのことに不思議な感慨をおぼえる。
「晃くん、あのね――」
伊緒さんが何か言いかけたその時、ひゅぱあっと一条の光が天に登っていき、消えたかと思った直後、夜空に大輪の花を咲かせた。
数瞬おくれて「どっぱん」とおなかの底に響く音が弾ける。
伊緒さんもぼくもすっかり喜んで、話しかけていたこともひっこめて夏夜の宙に釘付けになった。
あとでゆっくり聞けばいい。
もし忘れちゃっても、それはそれで構わない。
時よ、止まらなくていい。
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