旅行の朝のバイキング。さあ、狩りの時間がやってきました

4/4

143人が本棚に入れています
本棚に追加
/111ページ
 夫婦でよかったなあ、と思う瞬間のひとつです。  特に気に入ったものがあれば、銘々おかわりすればよいのですが、この「2周目」というのがまた悩みどころです。  なぜなら、なんだかんだ言っても一皿めで結構満足してしまい、おなかの空き容量も多くはありません。  そんなとき、わたしたちはこうします。 「伊緒さん、おかわりはどうですか」 「うーん、すごく食べたいけど……」 「では、いつもので」 「うん、いつもので」  おもむろにお互いのお皿を取り替えて、洋食がかりと和食がかりを交代します。  そうしてそれぞれがもっともおいしかったお料理を、「3品だけ」とってくるのです。  おなか具合によっては2品だったり4品だったりもするのですが、だいたいはこの方式ですっかり満たされて、幸せな気持ちで旅を続けられます。  ところでバイキングって、どうしてこうも心ふるわせるのでしょう。  農耕以前の人類の生業を「狩猟採集」と呼ぶことがありますが、獲物を追いかけたり、どんぐりや貝を拾い集めたり、木の実をもいだり、そんな遠い記憶を呼び起こすのかもしれません。  でも、きっとそんな太古の食事も仲間たちみんなで分け合って食べたにちがいありません。  バイキングもいかに食べ放題とはいえ、ちょっとずつとってなるべく他の人にも行き渡るような気遣いが必要ですよね。  ある時、2周目でそれぞれ一押しの3品を分け合って食べると、すっかりおなかがぽんぽんになりました。  満足してゴロゴロいっているところに、食後のコーヒーをもらって夫が戻ってきましたが、 (伊緒さん、伊緒さん)  と、なぜか小声です。 (どうしたの)  わたしも思わず小声になって聞き返します。  ちょいちょい、と彼が指し示す方向を見やるとおお、なんと!  空になっていた大皿と交換に、フルーツ類が運ばれてきたところでした。  うーむ。  これは、もう、見なかったことにするのがよいでしょう。    
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

143人が本棚に入れています
本棚に追加