143人が本棚に入れています
本棚に追加
/111ページ
それはもう、ものすごい雨の日でした。
関西にある、かつて夫が育ったお家に引っ越してきた初日のことです。
荷物を解くのはまあ、おっぽらかしておいて、さっそく近くのスーパーに初買い出しに行くべかと思っていた矢先でした。
一天にわかにかき曇り、逆巻く風がすぐ裏手の山に当たって、不気味な唸り声をあげたのです。
あれよと言う間に空は臨界点を迎え、わたしは生まれて初めて「黒雲」が湧き上がる様子を目にしました。
カッ、と青紫のフラッシュを焚いたように雲の内部が輝き、次の瞬間「ゴガン」と特大の雷鳴が炸裂したのです。
かみなりさまが何より怖いわたしはぴゅーっ、とばかりにお家の中に逃げ帰り、耳をふさいで夫にぴったりくっつきました。
こうすればおへそも隠せるので安心です。
鳴る神の
少しとよみて さし曇り
雨も降らぬか
君を留めむ
万葉集にのっている柿本人麻呂の歌を思い出します。
"雷がゴロゴロ鳴って、曇ってきた。
雨が降ってくれたなら、あなたをこの部屋に引き留められるのに"
そんな女の子目線、乙女力全開のこの歌が、わたしは大好きです。
最初のコメントを投稿しよう!