土用の丑がやってきた!うなぎを食べねばなりますまいよ

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 やや震えながら予約の電話を入れたときには声が裏返り、竹は「てゃけ」と発音していた。  こうして一歩ずつ大人の階段をのぼっていくのだねえ、と感慨にふけりながら、当日は緊張してお店の暖簾をくぐった。  実はお店に入る前からすでにいい匂いがしていて、思わず伊緒さんと顔を見合わせてしまう。  入り口のすぐ脇には大きな水槽があって、中に生きたウナギさんばかりではなく、ウグイさんとかテナガエビさんとかタニシさんとかがいらっしゃる。  水棲動物が好きな伊緒さんは「わはーい」と喜んで、じぃーっと水槽を眺めている。  よかったよかった。  古来、うなぎは調理に時間のかかる食べ物とされていた。  「うなぎ屋の箱枕」という言葉があるように、注文したらゴロンと寝転んで気長に出来上がりを待つものだったという。  いまでもオーダーを受けてからさばく本格的なお店では、最低でも40分ほどはかかるのが普通だそうだ。  おかげさまでというかなんというか、ぼくの選んだお店はそうではない。  実を言うと彼女の故郷である北海道では、なぜかあんまりうなぎを食べないそうだ。  
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