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結婚してからも、土用の丑の日だからといって、特別にうなぎを食卓にのせたこともなかった。
そんな背景もあって、伊緒さんに代表的なうなぎ料理を味わってもらおうと思ったのだった。
ほどなく運んできてくれた料理一式に、伊緒さんが目を丸くする。
「わあ!たまご焼きにうな子がはいってる!」
"うな子"とは、いつの間にか伊緒さんがうなぎのことをそう呼ぶようになったものだ。
勢いにのるとさらに"うなコフ"とロシア語っぽく変化したりもする。
由来はまだ、聞いていない。
「それは"う巻き"っていうんですよ」
うなぎのたまご焼きについて、ぼくが説明する。
「これは?うな子ときゅうりの……酢の物?」
「そう。それは"うざく"です」
うなぎの身ときゅうりを甘酢で和えたこの一品は、さっぱりとして夏らしい味わいだ。
もともと酸っぱいものが苦手だった伊緒さんも、これはたいへん気に入ったみたいだ。
う巻きもろともうまいうまい、と前菜として楽しみ、ちゃんと付けてくれた肝吸いにときめきつつ、いよいよ本丸たるうな重の蓋に手をかける。
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