143人が本棚に入れています
本棚に追加
/111ページ
召し上がってみたらいかがですか、というすすめに伊緒さんは素直にしたがい、おそるおそるといった感じで封を切った。
端からまふまふまふ、とかじって、もぐもぐもぐと咀嚼する。
ぼくはなぜか、かたずを飲んでそれを見守る。
「お味はどうですか?」
「うまい」
伊緒さんがネコのように目を細めている。
お気に召したようだ。
ほかにも気になった順にちょっとずつつまみ食いして、その度に伊緒さんは「うまいうまい」と大喜びしていた。
「うーん、どれもおいしい!ひとつひとつを大きく見えるようにするか、歯ごたえのあるようにつくって満足感を出してるのね。この工夫は、すっごく勉強になるわ」
おお、さすがお料理上手の伊緒さん。着眼点がちがいます。
でも思い返すと、伊緒さんがつくってくれる料理にもたしかに通じるところがある。
安い鶏むね肉を開いて大きなチキンカツにしてくれたり、少ないお肉をサイコロステーキにしてこんにゃくやさつまいもでかさ増ししてくれたり。
味だけじゃなく「満足感」への工夫にも心を砕いてくれているではないか。
こどもたちを喜ばせるという目的において、駄菓子はまさしく、そんな心遣いの結晶といえるかもしれない。
いまは夏だから入ってませんでしたけど、めちゃくちゃ長いのとかコインの形したのとか、チョコ系の駄菓子も楽しいですよ。
そう言うと、
「へえぇぇ!へえぇぇ!」
と、伊緒さんは目をキラキラさせて興味津々のご様子だ。
「ねえ!もちろん毎日はだめだけど、こどもができたら食べさせてあげようね!」
ぽろっ、と出た自身の言葉に、伊緒さんはすぐさま顔を赤らめた。
はわはわはわ、と阿呆のようにぼくが恥じらう。
そのせいもあって余計に恥ずかしくなったのだろう。
照れ隠しも兼ねて伊緒さんが、"すごくすっぱいガム"をぼくの口に押し込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!