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さて、そんなたこ焼きには食べ方にコツがある。
できたてはそれはもうまことに熱くて熱くて、うっかりそのまま頬張ってたいへんな目にあう観光客があとをたたない。
プロ(関西人)の食べ方はこうだ。
1個まるまるのたこ焼きを無造作に口に放り込む。
舌の上で「あうあうあう」とバウンドさせるように転がし、一箇所に長く留まらないようにする。
これに失敗すると口の中をやけどすることになるため、素早く大胆に、かつ精妙な舌さばきが要求される。
そしてのどの奥から「はふはふはふ」と力強く息を吐いて、熱源であるたこ焼きを冷却し続けるのだ。
無論、腹式呼吸にてこれを行う。
結果としてプロがたこ焼きを食べると「あふっ、あっふ、あふっ」という音が出るが、これは上記の複雑な挙動によるものである。
そうなのである。
「むり。ぜったいむり」
以上の説明を聞いて、猫舌の伊緒さんは最初たいへん不安そうな顔をした。
彼女のそんな顔はめったに見ることがないので、ちょっと脅かしすぎたと反省したぼくは、もうひとつの方法を推奨した。
それはたこ焼きを「半分に割る」こと。
たいがい長楊枝二本かお箸を添えて出してくれるので、そいつで素直に半分に割ると急速に熱が逃げて食べやすくなる。
「おいひい。すごくおいひい」
あふあふと猫舌でがんばりながら、喜んでたこ焼きを食べている伊緒さんを見ていると、とっても幸せな気持ちになってくる。
関西では一家に一台、必ずたこ焼き用プレートがあるというけど……。
今度大阪に遊びに行くときは道具屋筋でも覗いて、たこ焼き器材の導入を伊緒さんと検討しようと思っている。
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