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なぜこれらの動きが分かるかというと、ぼくたちが住んでいるお家は傾斜地にあって、庭の端っこに立てば茂みの隙間から一部始終が見えるからだ。
でも、見えるのは伊緒さんが庭に忍びこむまでで、そっから先は耳を澄ませて音声だけを頼りにしなくてはならない。
こっそり隠密行動をしている伊緒さんを、物陰からじぃーっと見守るぼく。
そしてそんなぼくをさらに誰かが狙いすまして……という妄想にハッ!となって、機敏に後ろを振り返ったりする。
なにしてるんだぼくは。
がさごそがさごそ、と正しい物音が聞こえてくるので、空き家のほうに再び注意を向ける。
すべての音がこちらに届くわけではないけど、断片的な伊緒さんの声をいくつか拾ってみよう。
「おーしおしおし」
「おなかすいたしょー?」
「めんこいにゃー」
「にゃにゃにゃにゃ!」
これらの状況証拠から、ぼくはひとつの結論を導き出した。
伊緒さんは、"あの生き物"に心を捉えられている……!
"あの生き物"と人類との因縁は、長く根深い。
古代エジプトでは神々の一柱として崇められ、奈良時代の日本には遣唐使の帰還とともに海を渡ってきたという。
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