ねこまんまは人間用でお願いします!子ニャーが家にやってきた

4/7

143人が本棚に入れています
本棚に追加
/111ページ
 伊緒さんとネコさんたちとのお別れは、自然に訪れるだろう。  そんな予測の通り、やがてネコさんは引っ越していったようだった。  それというのも、いつものように様子を見に行った伊緒さんが、ほどなくしょんぼりしてとぼとぼと帰ってきたからだ。  きっと巣はもうもぬけの殻だったのだろう。  でも、それから2日ののちのことーー。  雨が強く降っている日のことで、こりゃあ食材の買い出しにも行けないなあ、と思っていたとき。  伊緒さんがふいに、何かの気配を察知した子鹿のようにぴんっ、と耳をそばだてた。  ぼくの耳にも、なにやらか細い鳴き声のようなものが聞こえる。  止める間もなく外に飛び出していった伊緒さんは、ほどなく全身びしょびしょに濡れて帰ってきた。  驚いてとりあえずタオルを取りに行こうとしたぼくを引き止め、彼女は大事そうに胸に抱えていたものをそっと解き放った。  手のひらに乗るような黄色いモコモコ。  小指ほどのしっぽ。  ピンクのへの字口。  それは小さな小さな、茶トラの子猫だった。  ビー玉みたいな目でふるふるとぼくを見上げて、 「にー」  と、思いのほか力強い声でひと鳴きした。  
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

143人が本棚に入れています
本棚に追加