今日のお寿司は回りません!東と西でこんなに違いがあるのです

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「東はご存知かと思いますが、こちらは関西寿司の定番、"バッテラ"です。握りと申しましたが実は押し寿司でして、関西ではこういった"箱寿司"が伝統的なものになります」  透明な膜はおぼろ昆布を削った後の芯である、"白板昆布"というものだそうです。  前歯でかみ切ると、むちっとして甘酸っぱくて、〆た鯖との相性は抜群です。  もちろんまぐろのヅケもこっくりと旨みが凝縮されて、ほっぺたが落ちてしまいます。  お寿司の後に、海の香りも豊かなアオサの赤だしを吸うと、口中のお魚の脂がふわあーっ、と溶けていってしまいました。  おなかがぽんぽんで、ぽーっと幸せな気分ですが、夫は職人さんにおいしかったお礼を丁寧に述べて、すぱっとお店を出ました。  繁盛して他のお客さんがどんどん入ってきていることもありますが、長っちりしないのもひとつのマナーであることを初めて知りました。 「あーっ!おいしかったあ!いやはや貴重な体験させてもらいました。ありがとうございます」  お店から離れたところでそう叫んだのは、なんと夫の方でした。  わたしがお礼を言うべきなのに、びっくりしてそう伝えると、 「いいえ、いっぺんああいうお店に伊緒さんと行ってみたかったんです。でもほら、敷居が高いというか、なかなか入る勇気なくって……。でも、"取材"っていう大義名分のおかげで、堂々と楽しめました。なので、ありがとうございます。……って、記事書きの参考になりましたか……?」  そんな彼の言葉に、わたしは胸がいっぱいになってしまいました。  どうしていいか分からず、とりあえず"にくきゅう"の形にした手で、むにむにと彼のおなかを押しました。  晃くん、ありがとう。  こんどは、腕によりをかけて、わたしがごちそうつくるからね。  そう心の中でささやきます。  その後すごくおいしそうな記事が書けたのは、言うまでもありませんよね。
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