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伊緒さんが動き出すと子ニャーもぱちっと目を覚まし、にーにーにー!と騒ぎ出したので彼女が一緒に連れていく。
もこもこした黄色い子猫をしっかり抱きかかえて、帽子の影で陽射しからかばってあげる様子は、なんだかほほえましいかぎりだ。
お家の前の長い下り坂は、太陽の熱で陽炎のように揺らめいている。
そしてその向こうから、一台の軽トラがさっきの歌を流しながら、ゆっくりゆっくり坂をのぼってやってくる。
ここまで来ると、歌詞の中身もはっきりぼくたちの耳に届くようになった。
~♪わらびー・も・ち
わらび・もち
つべたーい つべたーい
わらびもち
「ええ!わらびもちの移動販売?」
伊緒さんがびっくりして、ゆらめく軽トラを凝視している。
そう、関西ではわらびもちの移動販売がとってもポピュラーで、このような住宅地にも時折やってくるのだった。
昔はリヤカーとか自転車とかだったのがいまでは軽トラになっているが、それでも関西の夏の風物詩のひとつには違いない。
「つべたいつべたい、わらびもちやでえ。いとはん、おひとつどないですか」
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