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ぼくたちの前までやってきた軽トラから、おじさんが朗らかに声をかけてくる。
"いとはん"は大阪の古い商家言葉で、"お嬢さん"の少しくだけた言い方だ。
これもずいぶんと久しぶりに耳にして、さらに嬉しくなったぼくはひとパック買うことにした。
軽トラの荷台にはクーラーボックスみたいなものがしつらえられ、中には氷水と一緒にぷかぷかとわらびもちが浮いている。
おじさんは金網でざっとわらびもちをすくい、ちゃきちゃきっと水気をきってパックに移す。
ぷるんぷるん、とゆれる透明なわらびもちは、まるで清水を丸いゼリーにしたかのように涼やかだ。
初めて見る光景に、伊緒さんが目を輝かせている。
その腕に抱かれた子ニャーも、なにごとかと目を丸くしている。
「はい、おおきに。いとはんとニャンにサービスな」
おじさんはネコ好きなのか、伊緒さんに抱かれたコロをみて目を細め、ちょっと多めに盛ってくれた。
わらびー・も・ち、の歌とともにゆっくりと去るおじさんに手を振り、戻ってさっそくいただくことにする。
ガラスの器にわらびもちをあけ、姿がきれいなので添付のきなこはそのままかけず、別皿に用意した。
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